あちこちで書いたりしゃべったりしているのだが、私は1920年代から30年代というものにどういうわけか強い執着があって、アメリカの禁酒法やらギャングやらが出て来る映画だとついつい見てしまう。たぶんその原点は『アンタッチャブル』(1987)だ。この映画のケビン・コスナー、アンディ・ガルシア、そしてショーン・コネリーは今思い出してもうっとりするほどカッコよかった。
で、この『暗黒街の顔役』は、いわばギャング映画のはしりとでも言うべきもの。90分程度の作品なのに、120分ぐらいの密度はある。編集がすごいです。あと、何せ実際にギャングが横行していた時代に近接して作られたものだから、リアリティが違う。登場する俳優も、演技力以上に、よくもまあこんなに悪い顔をした人たちを集めましたなあ、という感じ。
主人公のトニー(ポール・ムニ)は貧しい移民の青年で、しがない用心棒ながらも敵方のボスを暗殺(映画がはじまってすぐのこのシーンがすごい)することに成功、そこからどんどんのし上がっていく。トニーは無知で粗野で、おまけにどこか陽気な、恐れを知らない野心家。抗争に次ぐ抗争を制してついにボスにまで登りつめる。
この映画がたんなるドンパチ映画に終わっていないのは、トニーと妹・チェスカ(アン・ヴォーザーク)の近親相姦的な関係。ボスの愛人を奪って自分の情婦にしているトニーなのに、チェスカだけは別。他の男と付き合うのはおろか、むやみに外を出歩くことさえ禁じている。
トニーはほぼ無敵なのに、チェスカが原因で破滅していきます。その予兆となるのは、酒場で情婦とダンスをしている最中に、妹が他の男と踊っているのを見てしまい、逆上するシーン。情婦には目もくれず(ここ重要!)、ボディガードもなしに強引に妹を連れて家に帰ったことで、トニーは撃たれて負傷。
そしてその後。自分の旅行中にチェスカが結婚したことを知ったトニーはまたもや逆上、新婚家庭を襲い、その夫を射殺する。ところがこの夫が、よりによって信頼する子分のリナルド。愛する男を殺されたチェスカは兄の居場所を警察に密告する。
ラストは、家を包囲した警察と、タッグを組んだトニーとチェスカ(兄への愛が断ち切れず駆けつけちゃうんだなこれが)による壮絶な銃撃戦。ここでの兄妹、かなりいかれていて見もの。血のつながりはもちろん、似た者同士、愛し合っているゆえ、最高のパートナーなのだ。チェスカが撃たれて死んだことで、怖い者知らずのトニーははじめて恐怖と絶望に陥り、これまたあっけなく射殺されるのでありました。
ところで、以前、何かで「アメリカ人にとってのミュージカルは日本における歌舞伎のようなもの」と書かれてあるのを読んだのですが、してみると、ギャング映画は、日本でいうとヤクザ映画の位置づけになるのでしょうか、やっぱり。