高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

三隅研次『女系家族』(1963)

山崎豊子原作。大映の、関西の、ねちっこいドラマは、はまると本当にクセになる。カラーも妙にどぎつくて、それがまた合っている(すでに何度も書いているが、毎回思うことなので書いておく)。

大阪・船場の老舗問屋の当主(婿養子。これ重要)が死に、遺産相続をめぐって壮絶な争いが起こる。三人の姉妹(京マチ子鳳八千代、高田美和)、当主の若い愛人(若尾文子)、大番頭(中村鴈治郎。今のところ、この人が出ていてつまらなかった映画は見たことがない)、叔母(浪花千栄子。以下同文)やら踊りの師匠(田宮二郎。これぞ女たらし)なんかも加わって、話はいよいよ大変なことに。皆さん芸達者なもんだから本当に面白い。あ、北林谷栄も出ていますが、まあ巧いこと。

姉妹の呼び方が「とうさん」「中あんちゃん」「こいさん」……谷崎潤一郎の『細雪』を思い出す。この映画は、そうだな、『細雪』と横溝正史の『犬神家の一族』を足して二で割ったような映画です(どんなだ)。

戦後になって、民法が改正されてからの遺産相続問題。船場の老舗問屋と時代の移り変わり……山崎豊子らしい、社会性を持った骨太ドラマ。とにかく、人々の駆け引きがどんどんエスカレートしていく過程が面白いわけですけれども、これにはやはり関西弁の力が大きく働いている。

最後は、欲のない(ように見える)愛人の若尾文子が、跡取りの男の子を生んだことで大団円。欲がなさそうに見えて実は一番したたかでしたとさ、という話。そりゃ、船場のお嬢さんたちと、底辺からのし上がってきた彼女じゃ、肝の据わり方も違いますってば。三女・雛子が言うように、女系家族はこれで終焉を迎える。そうです、だからこそ、三姉妹の父親、死んだ当主は婿養子でなくてはならないのです。

それにしても、三姉妹が妊娠している若尾文子の家に乗り込み、無理矢理産婦人科医の診察を受けさせ、折檻して流産させようとする場面のエグさといったら、まったくあんたらは松子・竹子・梅子(『犬神家の一族』)かよ! と思いましたですね。

それに対して、一人で生きていく、子を産むと決めた若尾文子の執念。ほつれた髪の毛が妙に悩ましい。こういう演技、というか役柄を演じさせたたら、もしかしたら彼女は日本一の女優さんかもしれない。くすぶる女の情念(死語)としたたかさ。同じ大映でも、京マチ子山本富士子にはないもの。ついでに言えば、東宝・松竹にもこういう女優さんはいない。ちなみに若尾文子様は母校の先輩であります。

でも、実はいちばん面白かったのは、頻繁に出て来る民法や、問屋を株式会社にするための策謀とか、政治と経済の部分でした。何とかして出し抜こうとか、どうにかしてかいくぐろうとしても、その先には、網の目のように法律なるものが待ち構えているのでありました。残念。