高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

ジョン・ヒューストン『キー・ラーゴ』

疲れているときは、とにかく徹底した娯楽作品を見るのがよい。勧善懲悪万歳。

この映画は、ハンフリー・ボガート(以下ボギー)、ローレン・バコールのコンビが主演なのですが、もうね、この二人が出ていたら、正直、何だっていいっていう気持ちなんですよ。演技力とかは二の次にして、まずはその存在感を楽しむべし。

私、ボギー大好きなんですよね。その面構えからは想像もつかないような笑顔の愛らしさ、どうにもならない品の良さ。バコールも惚れ惚れするカッコよさ。この頃、二人はすでに結婚していたわけですが、ほんとお似合い。あまりロマンチックなシーンはないのですが、二人で並んで歩くシーン、両方とも白いシャツを着ている、その背中がそっくり(笑)。背中は嘘をつかないのである。

しかも、脇にはライオネル・バリモア、敵役にはエドワード・Gロビンソン。何の文句がありましょうか。この二人にはハズレなし。

お話は単純明快。舞台はフロリダのキーラーゴ島。退役した元少佐フランク(ボギー)が戦死した部下ジョージの遺族に会いに来る。そこでは未亡人ノーラ(バコール)とジョージの父(バリモア)がホテルを経営しているのですが、どうも様子がおかしい。そう、ここは、釣り客を装ったキャングのボス・ロッコ(ロビンソン)とその一味の隠れ家になっていたのでした。

ロッコたちは、今晩中にギャング仲間のジギーとの取引を済ませてキューバへ逃亡する計画だったのですが、何とそこへハリケーンが襲来! しかも船が流されちゃったよ! いいよいいよー、この展開! 一種のクローズド・サークル(外界と物理的に遮断された状況で事件が発生する展開のミステリ。雪の山荘とか、絶海の孤島とか)ものですな。映画の原点はやはりスリルとサスペンス、緊迫したやり取りが続く。そしてここに、先住民の脱走事件が絡みます。彼らを追ってきた副保安官をロッコさんたちが射殺してしまうという。

この先住民たちは、バリモア、バコールを慕ってるのね。彼らは自分達を差別しないから。先住民の長老格のバアちゃんをバコールがボギーに紹介するシーンがとてもよい。

 「この島のインディアンはみんなこの人の子や孫なの。今年108歳になるのよ。でも息子は115歳なの」

エドワード・G・ロビンソンロッコ、さすが、ほんとーに憎たらしい悪役になってます。そして怖いです。コワモテで人を脅かそうなんて、所詮は三下のやること。本当に怖い人というのは、基本は礼儀正しく、そして笑った時がいちばん怖い人のこと。妙なハイテンション、得体の知れない陽気さ。機嫌がいいほど不安にさせられる。これが一変すると、血を見ようが何をしようが屁とも思わない冷酷さが顔を覗かせることは、ちゃーんとわかるわけで。

このロッコの情婦・ゲイを演じるクレア・トレヴァーがよかったねえ。この映画でアカデミー助演女優賞。『駅馬車』のダラス役もいいけどね! この情婦、かつては売れっ子の歌手だった。しかしロッコの情婦になり、今ではすっかりアルコール依存症。ハリケーンに閉じ込められ、手持無沙汰のロッコは、飲ませてやるから唄えと命じる。ここ、ほんとによかった。その、酒欲しさに歌わずにはいられない落ちぶれた感じ、惨めな感じがよく出ていました。

また話が飛ぶんですけど、川端康成の『山の音』で、戦争から帰って来て荒みに荒んでいる登場人物の修一が、嫌がっているにもかかわらず、酒に酔っては愛人に歌を歌わせるというエピソードがあります。それを思い出した。何というか、女に対する侮辱、冷たさのひとつの極致なんだよなー。 なぜでしょうね?

さてロッコ、ホテルの船を操縦して自分たちをキューバまで連れて行けとボギーを脅す。ハリケーンのなか、ジギーとの取引もどうにか無事に終わり、いよいよボギーは船を動かす羽目に。目的を果たしたら確実に殺されることはわかっている。でもヒーローが逃げるわけはない。さあ、最後の戦いは船の上で!

……まあ、ボギーは撃たれつつも、めでたくロッコをはじめ手下4人を倒します(当然)。しかし深手を負っている。だがどうにか救助を求める。バコールにも電話をかける。バコール、「あの人、帰って来るわ!」と義父に言う。窓辺に駆け寄る。ハリケーンは去っている。そこへ船が入って来る。

船を操縦するボギー。颯爽としている。背筋もしゃっきり伸びている。さらには笑顔。そして「THE END」のマーク。

って、あんた、撃たれたんじゃなかったのかよ! といったツッコミをするのも、こういう映画を見る楽しみのひとつです。