高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

マキノ雅弘『武蔵と小次郎』(1952)

わたくしがどれだけ淡島千景さま(おケイちゃん)が好きかというと、まあ、こうした作品もちゃんと観ているんだよ、ということになりましょうか。

1952年の松竹映画。新国劇の二大スター(島田正吾辰巳柳太郎)が武蔵と小次郎を演じ、従来のようなお通といった恋人ではなく、武蔵には篠(桂木洋子)、小次郎には照世・八雲太夫淡島千景)という恋人を配している。篠は父親を武蔵に殺されたが、今は武蔵を愛している。

時間が短くて良い。ぽんぽんと話が進む。カメラの動きも早い。たぶん、マキノ監督というのは、「映画」をよく知っていたのだろう。上下・左右・奥行きというのを、立体的に意識している作り方。

おケイちゃんは、まだ映画に入ってから2年目で、しかもあまり時代劇慣れしていないせいか、やや動きが硬い。ただ、時代劇的な「型」の演技と、宝塚的な「型」の演技が、うまくマッチしているという気はする(贔屓目ですが)。あと、日本髪、照世にしろ八雲にしろ、残念ながら似合っていない(涙)。本人が気にしていた通り、顔が小さすぎる。普通の丸髷だと気にならないのだが、武家の姫の鬘、遊女のあの独特の髪型は正直微妙。

だ・がー!!まだデビューしたての若い頃のもの。とにかくきれい。いや、きれいの一言。この頃から三十代前半にかけての、約十年間のきれいさってないわ。ちょうど、モダンな『お茶漬けの味』と同年に封切られたものだけど、よくやったと思うわ。

八雲が、小次郎からすっと身をかわし、灯りを消すシーン。小次郎に切られそうになり、自ら小次郎の短刀を抜いて自害するシーン。このあたりは、本領発揮。動きがドタドタしていない。流れるような感じ。太夫の衣装からうって変わり、薄い布をかぶり、武蔵のもとへ登場するシーンも、なんつーかこう、動きがキマっているのである。

顔もそりゃ好きだよ、とくに目。目だけであんなに豊かな表現をする女優もなかなかいない。しかし、何にとどめをさすかって言ったら、もう身のこなし、動き。所作。これに尽きる。

八雲は、愛する小次郎を卑怯者だと思わせたくないため、武蔵に試合の辞退を申し出る。それを知った小次郎が怒り、斬ろうとするが、八雲は小次郎に血を流させたくないと自害する。『淡島千景 女優というプリズム』にあった通り、精神的優位に立ち、勝つのは女である八雲。やはり戦後の映画なのである。

一方、武蔵の方はいうと、これがまたカッコいい。どう見ても小次郎は、メイクからして気持ちが悪く、いやな奴。その武蔵に惚れる篠。そりゃそうだよ。しかし、小次郎との対決を阻むため、篠は刀を隠してしまう。あー、女ってほんとバカ。男の壮大なバカさ加減の前には、そんな小細工しても仕方ないのに。ま、武蔵は舟の櫓で小次郎に勝ってしまいますけどね。

双方、とにかく女の愚かさが出ています。しかし、選んだ男というのを考えると、人間味あふれる武蔵が勝って、篠も生き残ります。一方、出世目当ての小次郎は死に、彼を愛してしまった八雲も死ぬ。

そういう観点から見るのは面白いと思いましたね。男同士の、敵同士の物語の底に、運命をお互いで握り、狂わせ合う男女の物語。おそらく、監督の狙いもそれだろう。

いまいちわからなかったのは、照世と八雲を一人二役にしたこと。照世を初めに見て美しいと思った小次郎は、瓜二つの八雲にひかれる。八雲亡き後、細川家に仕官した小次郎は、照世と結婚しようとする。さて、惚れていたのは。身代わりは、どっち?ちなみに、照世は気の狂った役柄です。さすが、ちゃんと琴は弾いていましたよ、おケイちゃんは。