高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

清水宏『簪』(1941)

夏休みのあいだ、山中の温泉宿に集った泊まり客たちの長屋のような人間模様を描きながら、落とし物の簪をきっかけに巻き起こる騒動とドラマが作品の中心となる。清水宏の映画(大好き)は、細部で成り立っているので、筋よりもその細部で印象に残ったところ…

衣笠貞之助『鳴門秘帖』(1957)

前の記事が陰惨なので、早めに下の方へ、下の方へと送ってしまおうと思います。というわけで映画のお話。 1957年の大映映画。原作は有名、もちろん吉川英治。長谷川一夫、市川雷蔵、山本富士子、中村伸郎、滝沢修などの豪華キャストであるが、もちろん観た目…

母との戦い(のはじまり)

母からも家族からも卒業したい。いま、わたしは、そう思っている。 先日、珍しく母と衝突した。と言っても、その関係はこれまで、決して穏やかだったわけではない。むしろ、複雑で、見えない確執の時間だった。 わたしは、不仲な両親のもとで育った。基本的…

アルフレッド・ヒッチコック『泥棒成金』(1956)

何度も観ているはずなのに、ほとんど忘れていた。そのあたりに、この映画の秘密があると思います。グレース・ケリーが、押せ押せのかわいい「女の子」を演じていたことに驚く(って、『裏窓』もだな)。私のなかではきれいな「女の人」だったのに。しばらく…

伊勢の旅(中上健次と中里介山)

中上健次の『紀州 木の国・根の国物語』と、中里介山の『大菩薩峠』に憧れて、伊勢へは二回行った。今でも、ときどき思い出す。駅のレンタサイクルの窓口にいたおばさんの、あれは伊勢言葉というのだろうか、独特のイントネーションも、はっきりと耳に残って…

ルネ・クレマン『居酒屋』(1956)

予想よりはるかによかった。よく、あのゾラの代表作を、2時間弱のコンパクトかつきちんとした骨格を持ったドラマにまとめたよ。ルネ・クレマン、さすが。 出だしで、あ、これはいいと思うのは久しぶり。オープニング。ジェルヴェーズが窓から外を眺める。モ…

忘れられない生徒ーー随筆のような、小説のような

私は、東日本大震災の直後、縁あって福島県のある私立高校に、専任教諭として勤めることになった。赴任早々、間もなく入学してくる1年生の担任をすることになった。これには驚いたが、さらに驚いたことには、そのクラスの生徒の人数は4人、しかも男子は1名だ…

恋と涙

かねてから、日本の文学、というか文化は、恋と涙に収斂されるのではないか、と考えている。古来より、いったいどれだけの歌人が、恋と涙をうたってきたことだろう。まったく、王朝のひとたちときたら、よく涙を流す。 保田與重郎は次のように言う。 わが詩…

マキノ雅弘『武蔵と小次郎』(1952)

わたくしがどれだけ淡島千景さま(おケイちゃん)が好きかというと、まあ、こうした作品もちゃんと観ているんだよ、ということになりましょうか。 1952年の松竹映画。新国劇の二大スター(島田正吾と辰巳柳太郎)が武蔵と小次郎を演じ、従来のようなお通とい…