高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

島津保次郎『隣の八重ちゃん』(1934)

まず、タイトルからしていいじゃありませんか。 島津保次郎という監督がこの時代にどんな位置にいたのかは、タイトルクレジットを見ればわかる。助監督に豊田四郎、吉村公三郎とか、撮影助手は木下惠介だし、はっきり言ってビビる。そして、いわゆる松竹蒲田…

江戸川乱歩「目羅博士の不思議な犯罪」

街が好きだ。誰が何と言おうと、街が好きだ。理屈抜きに好きなのだからどうしようもない。街に出ると、空を飛んでいるような気持ちになる。どこまでも行ける。そんな感じになって、ぐんぐん歩く。自分では、大真面目に、飛んでいるつもりなのだ。 街の中でも…

『女経』(1960年、大映)

増村保造・市川崑・吉村公三郎による、私の大好きなオムニバス映画である。オムニバス映画が好きな理由は、何のことはない、並みはずれて集中力がないからである。 <第一話 耳を噛みたがる女> 増村監督で主演は若尾文子(母校の先輩であります)。 まず、…

ロベール・ドアノー『不完全なレンズで』

以前にも書いたが、私はルネ・クレールの『巴里祭』が大好きで、もちろん『巴里の屋根の下』も大好きで、そんなわけであるから、ロベール・ドアノーの写真も、また大好きである。 その彼のエッセイがこの本。だいたい、本のタイトルが素晴らしいじゃないです…

木村聡『赤線跡を歩く』をめくりながら

本の帯には、「この手のものに弱いんだよね~ お父さんのためのディープなちくま文庫」とある。今なら、もうこのコピーはアウトだろう。ちなみに私はお父さんではないが、この手のものに弱い。ゆえに迷わず買った記憶がある。 副題には、「消えゆく夢の街を…

久松静児『警察日記』(1955)

私は何でもかんでもやたらとメモを取る癖があり、それによるとこの映画を見たのは2012年5月となっている。舞台は会津の田舎であるが、まさかこのとき、自分が神奈川県から東日本大震災後の福島県に3年間移り住むことになろうとは、知る由もなかった。 劇中、…

キャロル・リード『邪魔者は殺せ』(1947)

キャロル・リードときたらカメラマンのロバート・クラスカー、ことに夜のシーンにかけてはほとんど魔術としか言いようがない映像を撮った人である。人の名前を覚えるのが苦手な私でも一発で覚えたぐらいだから、つまりほんとにすごい人なのである。で、この…

梶井基次郎のこと

私は、美しいものを見ると反射的に目を閉じる。梶井基次郎の作品は、しょっちゅう目をつぶってしまうものだから、読むのに意外と時間がかかる。 梶井基次郎という作家は、数少ない、本物の天才だと思うし、彼の作品を悪く言う人に、私は出会ったことがない。…

黒澤明『天国と地獄』(1963)

私は黒澤映画のよい観客ではない。 基本的には、ちまちま、うじうじとした作品――よくいえば、微細なものにこだわっているような映画が好きなので、それは西部劇があまり得意ではないのと同じ理屈だと思う。 生命力に乏しいので、エネルギーに満ちあふれてい…

アーヴィング・ラッパー『アメリカ交響楽』(1945)とジョージ・ガーシュウィン、フレッド・アステアならびにジンジャー・ロジャースのこと

言わずと知れた大作曲家・ジョージ・ガーシュウィンの伝記映画。 ガーシュウィンの曲が、まぎれもなく私の原型を作っているひとつの要素であることをあらためて思い知らされる。「ラプソディ・イン・ブルー」より好きなクラッシックの曲が、私にあるとは思え…

『巴里祭』(1933)

ルネ・クレール監督のこの映画は、長らく私のベストワンだった(では今は何か、と言われると、ちょっと出てこない)。 なけなしの小遣いをはたいて買った、初めてのビデオテープでもある。 この映画に関しては、映画そのものだけではなく、まったく、いろい…

谷崎潤一郎『細雪』(含、市川崑監督の映画)

むかし、大学院のゼミで、一年間かけて谷崎潤一郎徹底して読む、ということをやった。『刺青』にはじまり、代表作と呼ばれるものを、年代順に読んでいった。 その当時に作ったノートは、今も重宝しているが、年を重ねるごとに、谷崎のすごさをひしひしと感じ…

地名への偏愛

地図が好きである。それとともに、理屈抜きで地名が好きである。 私は仙台市に生まれた。最初に育ったのは、現在の若林区・石名坂というところである。そこから、すぐ近くの畳屋町にある幼稚園に通っていた。私の高校時代ぐらいまでは、個人情報保護法などと…

ジョン・フォード『怒りの葡萄』(1940)

言わずと知れたジョン・スタインベックの同名小説の映画化。原作はピュリッツァー賞を受賞している。スタインベックは、広く見れば左派の作家ということになるのだろうが、本当に良いものに右も左もありゃしない。政治や思想信条、宗教などを色眼鏡にして作…

グレゴリー・ラ・カヴァ『ステージ・ドア』(1937)

タイトル、そのまんま。女優を夢見て、毎日を精一杯生きている女(の子)たちの下宿屋が舞台。キャサリン・ヘプバーンとジンジャー・ロジャースのW主演。 どこの国でもいつの時代でも、夢を追うというのは貧しさと隣り合わせ。ここに出て来る女の子たちもそ…

清水宏『有りがたうさん』(1936)

これは、清水宏の名前がはじめて自分のなかに刻印されたと言ってもいいような記念すべき作品。原作は川端康成の「有難う」ですが、これを映画にしてしまうのだなあと。でも、このスケッチ風の原作は、映画でもきちんと生かされている。 まず、冒頭部分。主役…

ゲオルク・ヴィルヘルム・パープスト『三文オペラ』(1931)

あまりにも有名なブレヒトの戯曲を、いちばんはじめに映画化した作品。あと1.5倍ぐらいテンポが早かったら、傑作だったのになあと思います。 舞台はロンドンの貧民街・ソーホー。悪名高いギャングのメッキーがポリーという少女と結婚する。ありとあらゆる物…

美しい物語についての断想

幼少期に読んだもののなかで、自分のコアな部分を形成した物語――新美南吉の『ごんぎつね』。O・ヘンリーの『賢者の贈りもの』。アンデルセンの『人魚姫』。ユゴーの『レ・ミゼラブル』(のなかのファンティーヌ)、など。 我ながら恥ずかしくなるほど、わか…

ヘンリー・コスター他『人生模様』(1952)

長いです。 私はオムニバス映画というのがめっぽう好きで、それはたんに自分が並外れて集中力がないからなのだが、この映画は、O・ヘンリーの短編を、コスター他4人がそれぞれ監督した5話から成っているものである。全編を貫くナレーターとして、本物のジョ…

今井正『にごりえ』(1953)

これは、「十三夜」(主演:丹阿弥谷津子)、「大つごもり」(同、久我美子)、そして「にごりえ」(同、淡島千景)の三話オムニバス形式の映画で、公開当時の評価も高く、私も初めて見た時(まだビデオだった)、実にいいなあと感心した記憶がある。 でも今…

上野駅

日曜の上野駅は混んでいる。 そりゃ新宿だって池袋だって混んではいるが、何というか、混ませる人種が違う。 そこで私はひとりのおじいちゃんに呼び止められた。 どうやら、Suicaにチャージをして欲しいらしい。 震える手でSuicaと一万円札を差し出される。 …

山下耕作『大奥絵巻』(1968)

ドロドロした女同士の戦い、いわゆる大奥モノのはしりである。まあ、私の場合、淡島千景が目当てで見たわけですけれども、結構なオールスターキャストで、セットなんかもすごく豪華で、今の時代劇の貧相さにちょっと泣けてくる。日本は豊かな国だったんだな…

ジョン・ヒューストン『キー・ラーゴ』

疲れているときは、とにかく徹底した娯楽作品を見るのがよい。勧善懲悪万歳。 この映画は、ハンフリー・ボガート(以下ボギー)、ローレン・バコールのコンビが主演なのですが、もうね、この二人が出ていたら、正直、何だっていいっていう気持ちなんですよ。…

アナトール・リトヴァク『うたかたの恋』(1936)

今さら説明するまでもありませんが、実際にあった歴史上の出来事、オーストリア=ハンガリー帝国のルドルフ皇太子と、男爵令嬢マリーの心中事件(通称「マイヤーリング事件」)をもとにして作られた映画でございます。ルドルフをシャルル・ボワイエ、マリー…

アンドレイ・タルコフスキー『ノスタルジア』(1983)

ごめんなさい。長いです。思い入れありまくり。 「映像の詩人」とさえ呼ばれるタルコフスキーの映画の美しさ、今さら語るまでもないが、それにしても美しい。初めて見たときは、こんなにきれいな映像を持った映画は見たことがない、と思ったもんね。恍惚とい…