私は何でもかんでもやたらとメモを取る癖があり、それによるとこの映画を見たのは2012年5月となっている。舞台は会津の田舎であるが、まさかこのとき、自分が神奈川県から東日本大震災後の福島県に3年間移り住むことになろうとは、知る由もなかった。
劇中、よく知っている民謡(「会津磐梯山」はもちろん、盆踊りの定番曲から、白虎隊の唄とか)ばかりが流れて、不覚にも泣いてしまう。東北出身の者にはなじみ深いフレーズばかりなのである。
悪人がひとりも出ない映画。これといってはっきりした筋もない。田舎の村に起こる、ささやかな事件の数々。主人公は森繁久彌演じる巡査である。芸達者な俳優ばかりが出ていて、当時の日本映画のすごさというものがわかる。ちなみに、私ゴヒイキの伊藤雄之助も出演しています。
田舎のあたたかさ、したたかさ、あつかましさ、哀しさ、貧しさがよく出ていた。いちいちわかってしまうのが、私も東北人であるという何よりの証拠である。
杉村春子が絶品だった。人身売買の仲介をしては小金を稼ぐ女という設定で、したたかで小ずるくて、でも憎めない。万引きと無銭飲食で捕まる千石規子もよかった。両方とも、子どものためだけに犯罪に手を染めてしまうのが哀しい。
いちおう、中心になっているのは、それは当時6歳だった二木てるみ演じる少女と弟の物語。この二人、親に捨てられて、森繁久彌に発見される。二木てるみが天才子役と言われていたことに心から納得する。安達祐実、芦田愛菜もびっくりだぜこりゃ。
クライマックスで、町一番の料亭にもらわれた二人を、捨てた母親がこっそり見守るシーンがあります。警察のジープに乗せられ、車中から子どもたちをそっと覗くのですが、ここよかったねー。しかも、粋なはからいというか、いや田舎だから人情そのものと言おうか、ジープは何度も料亭の前を往復するんですが、それがまたよかった。このシーンまでは、正直だれるところもあるのですが、さすが、映画(物語)としてちゃんとヤマ場を用意していました。