高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

上野駅

 日曜の上野駅は混んでいる。 そりゃ新宿だって池袋だって混んではいるが、何というか、混ませる人種が違う。

 そこで私はひとりのおじいちゃんに呼び止められた。

 どうやら、Suicaにチャージをして欲しいらしい。 震える手でSuicaと一万円札を差し出される。

   なぜ私なのか。 こんなに人がいて、なぜ私なのか。

   私はなぜか中高年の方々(当方も不惑を過ぎてはいるが)に声をかけられる。掃除のおばちゃん、食堂のおばちゃん、タクシーの運転手さんなどにはまず100%に近い確率で好かれる。 必ず誰かにつかまるから、目的地までにまっすぐたどり着いたためしがない。これから出かけるという道すがら、かぼちゃを持たされてしまい閉口したことがある。

 あれはいつだったか、混んだ山手線で突然背後から近づいてきたおばちゃんに、「羽田へ一緒に行ってくれませんか」「あなたは羽田へ行くはずだ」と囁かれたときはさすがに驚いた。確かにスーツケースは持ってたけどさ。丁重にお断り申し上げました。

 そんなわけだから、私はこころよく(しかたなく)Suicaと一万円札を受け取った。おじいちゃんの目の前でチャージする。

  一万円札は、券売機に吸い込まれていった(当たり前である)。

  ところが、である。 いざSuicaを渡そうとすると、おじいちゃんの様子がおかしい。一万円札がなくなったのが解せぬらしい。まるで私がくすねたとでも言わんばかりの顔である。

   ちょっと待って、そりゃないよ。

 これだけの人のなかから私を見込んでおいて、それはない。

   「あのですね、一万円はちゃんとこのなかに入ってますから!」(こう書いてみて、事実としては間違ってはいないのだけれど、文字にすると明らかにおかしい)

 「あのですね、ここにピッと当てるとパッと扉が開きます(長島か)、そうするとここに金額が出ますから。一万円はちゃんと入ってますから!」(私、やや金切り声)

   改札まで連れて来られたおじいちゃんは、恐る恐る、でも言われたとおりに確認し、ようやく納得した様子で雑踏のなかに消えて行きました。

   でもね。こういうことは、新宿駅ではまず起こらないよな、と思うのですよ。