高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

アーサー・ペン『俺たちに明日はない』(1967)①

名作。かなり好きな映画である。とにかく、主人公二人の何と魅力的なことよ。あの世界恐慌からはじまった空前の大不況、アメリカにおける田舎、教育がないこと、さまざまな要因が絡み合って誕生した、銀行強盗であり殺人犯のボニーとクライド(実在)。

勝手にしやがれ』なんかにも感じるのですが、この映画が公開された当時は、世界中に無数のボニーとクライドを(カッコだけでも)真似るアンちゃんネエちゃんが出現したであろうことは疑いない。そのぐらいカッコいい。しかし所詮それらは中央区銀座と○○銀座にすらなりゃしないもので、「表現」としてのボニーとクライドは、フェイ・ダナウェイウォーレン・ベイティの魅力に尽きる。

それから、この二人と逃避行を共にするクライドの兄・バック(ジーン・ハックマン)とブランチ(エステル・パーソンズ)の夫婦、これがまたよい。無知で無学で粗野な田舎者感がよく出ている。とくにブランチ役のエステル・パーソンズはこれでアカデミー助演女優賞を取りました。納得。あと、やはり行動を共にする、愚鈍な貧しい農家の青年・モス(マイケル・J・ポラード)もよかった。

いえね、私、馬鹿にしてるんじゃないんですよ。田舎育ちだからよーくわかるんです。ほんと、殴りたくなるくらいカンにさわる厚かましさ。ボニーが始終イライラするのもわかる。と同時に、クライドが兄への愛情あまりにも深きゆえ、どうしても二人を見捨てられないのもわかる。この何だか獣じみた血縁の強固な連帯感(ときに桎梏ともなる)こそザ・田舎。

冒頭、ボニーがクライドと手を組むまでのテンポのよさ、いや呆気なさがよい。とにかく余計な説明なし。ボニーの閉塞感をクライドが見抜く。君は悧巧だ、と言う。もうそれだけでいいんだよね。その後は、どちらかというとボニーがリードしていきます。クライド、はじめはショボい強盗だったんですよ。ビビりだしねえ。でも、うっかり一人射殺してしまったことから、もうタガが外れたように殺しまくる。ボニーは基本的に、全くと言っていいほどビビりません。これはフェイ・ダナウェイだからこそさまになっていると思うなあ。

この二人、めちゃくちゃ愛し合っているのに、なかなか肉体関係を結べない。それというのも、クライドが性的不能っぽい設定だからで、後半にめでたく結ばれるわけですが、私個人としては、わりとこのあたりどうでもよかった(おい、さみしいなあ)。それよりも、人質として捕まえて手錠をかけた男が、ボニーの顔に唾を吐いた瞬間、逆上したクライドがあっという間に川に突き落とし、手錠のままボートに乗せて流しちゃう場面に感動しましたね。

 ボニーへの愛情の深さとかではなく、そのキレ方が、もうね、わかる人にはわかる。そう、貧しさや無教養に裏打ちされているということが。

 つづく。