私は、もしかして、もしかすると、小津より溝口が好き? というか、溝口健二が好きだということをはっきりと自覚させられた作品。代表作というわけでもないのだが、その理由は何かと言ったらもう映像美。構図。モノクロームの美しさ。この人の眼は、絶対にモノクロ仕様だったはずだ。
ワンカット、ワンカットに身悶えするので、映画が終わったころにはたとえ90分弱でもどっと疲れが出る。『祇園の姉妹』もそうだったけど、それには及ばないこの作品だけど、もうね、構図がね、キレがあってね、美しい。とにかく、空間把握がすごいのだ。
映画は、祇園の芸妓・美代春(木暮実千代)とそこに舞妓の修行にやってくる栄子のち美代栄(若尾文子)の物語。冒頭から田中春男が出ている。もうその時点で私としてはアタリである。どんなチョイ役でも田中春男がいるとテンションが3割は上がる(この田中春男とピエール瀧が似ていて、必然的に後者も私は好きだ)。
木暮実千代は色っぽいし、身のこなしもきれいなんだけど、どうもこの役は合っていないような気がします。芸は売っても身は売らぬ、惚れた男と以外は寝たくないという古風な芸者。妹とも娘とも思う栄子のために体を張る。誇りも意地もある。……しかし、やっぱり『青い山脈』の能天気な芸者とか、『お茶漬けの味』の有閑マダムの方がいい。
すごい、と思ったのは、「いい」客である会社専務の楠田さん(河津清三郎!)に強引に迫られた若尾文子が、楠田さんの舌に噛みついてしまうシーンですね。口を押さえて転げまわる楠田さん。乱れた髪に無表情の若尾文子の口のまわりには血が付いている。怖えー!
冒頭から、この若尾文子、どこかモッタリして、洗練されていない女の子なのである。こんな舞妓(芸妓)いるかなあと思ってしまう。ところが、この血まみれのシーンに至って、はじめてそのモッタリ感が「情念」となって輝く。あまりにも洗練された花街の女では、このシーンは逆に迫力に欠けるのだ。