高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

ジャック・ベッケル『現金に手を出すな』(1954)

何というオシャレな映画。「現金」を「げんなま」と読むのもシャレているが、最初から最後まで、画面の隅から隅まで、小道具ひとつに至るまで、とにかくオシャレであります。

ギャング映画なのですが、ほろ苦いのにどこかお茶目。これは、主人公のマックスことジャン・ギャバンのキャラクターに寄るところ大なり。このマックスと相棒のリトン、もはや初老にさしかかり、引退に向けた最後の大仕事として莫大な金塊を強奪する。しかし、脇の甘いリトンが、自分が入れあげている踊子のジョジイ(ジャンヌ・モロー)にうっかりしゃべってしまったからさあ大変。

このジョジイ、実は敵対するギャングのボス・アンジェロ(リノ・バンチュラ)の情婦なんですねー。この映画に出演した当時、女優としてはまだ駆け出しだったのに、すでに悪女役のジャンヌ・モローってば最高! まあ、このおかげでマックスたちは狙われる羽目に。

ほんと、物事を破滅させるのは「女」と「愚かな身内」なんだよなー。

マックスは情にもろい。年甲斐もなく若い女にのめり込み、うっかり秘密を漏らしてしまったリトンに対して、腹を立てつつも隠れ家に呼び、「俺たちはもう若くないんだ」と懇々と諭すところなんか、しみじみしてしまいますよ。

しかもこのシーンがまたシャレております。隠れ家だから生活感が全然ないけど豪奢。無造作に酒とラスクとフォアグラ? が出て来る。夜も更けて、マックスはリトンにパジャマを貸す(柄違い!)。怖い顔をしているのに、ちゃんとパジャマに着替え、歯も磨いてから寝るんだよこのオジサンたちは!  美学というかこだわりが鮮やかな場面。

なお、どこまでもリトンはお馬鹿なので、アンジェロに拉致されます。金塊と引き換えにリトンを返すと言われたマックスは、罠と知りながらも見捨てることができない。金塊と機関銃を車に積み込み、旧友のピエロ(これがまたオッサンで、しかもかなり肥っている。はたして大丈夫なのかと思っちゃいます)とともに取引の場所へ。

ここの双方の壮絶な撃ち合いは見ごたえがある。なぜか? 緊迫した場面なのに妙におかしみがあるからである。それには、劇中で繰り返し流れるこの映画の主題曲の存在が大きい。ハーモニカメインで、とにかく渋い。もの悲しいのに、聴きようによってはユーモラスでさえある。ま、とにかく、オジサンは頑張っているのです。とくに、ピエロが老体ならびに肥満体に鞭打って機関銃を撃ちまくるところなんか、なかなかよろしい。

それにしても、結末はほろ苦い。金塊を失ってまで助けたリトンは、撃たれた傷がもとであっけなく死ぬのですから。

ジャン・ギャバンがとにかくカッコいいです。彼の演じたマックス、とにかくものすごくモテる。いったい何人の愛人がいただろうか? 踊子のローラ、換金所の娘、何だか得体の知れない上品な貴婦人。レストランの女将だって、惚れているからこそ彼をかくまってやるんだよねー。

機関銃を撃ちまくり、金塊も相棒も失ったジャン・ギャバン。ラストは、何事もなかったように件の貴婦人とデートをします。哀愁が漂っている。細かい文字が見えないので、ちゃっかり老眼鏡をかけちゃったりする。どこか茶目っ気があるこの姿に、私はすっかりやられてしまったのでありました。