高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

ヴィンセント・ミネリ『巴里のアメリカ人』(1951)①

ミュージカル映画といえばやっぱりMGM。そのMGMミュージカルの黄金時代を代表する、しかも集大成として位置づけられるようなこの作品、アカデミー賞では6部門を受賞し、おそらくは『雨に唄えば』と並んで、最も人口に膾炙したものでありましょう。両方とも主演はジーン・ケリーですがね。

もっとも、私にとってこの映画は、すべての音楽がアイラとジョージのガーシュウィン兄弟ががつくったものである、ということが最も重要でして、もうね、楽曲が流れるたびに目頭が熱くなって困りました。

お話自体はほんとに他愛もないものですが、一応。パリで暮らす画家志望のアメリカ人ジェリー(ジーン・ケリー)は、自分の絵を気に入ってくれた金持ちの有閑マダムであるミロ(ニーナ・フォッシュ。よかった。演技力で映画を支えています)というパトロンを得るが、酒場で偶然出会ったリズ(レスリー・キャロン)に一目惚れしてしまい、やがて二人は恋仲に。

 しかし、ジェリーの友人であるピアニスト・アダム(オスカー・レヴァント)の知人で、有名な歌手でもあるアンリ(ジョルジュ・ゲタリ)は以前からリズと親しい関係にあり、彼女と結婚しようとしていたのでした……。 ま、もちろん言うまでもなくハッピーエンドの映画ですけどね!

さて、この映画のなかで、「アイ・ガット・リズム」に乗せてジェリーと子どもたちがパリの街角で歌い踊るシーンがあるんですけど、ここで私は、「いつからミュージカルは、家族みんなで、お子様連れでも安心して楽しめる映画のジャンルになったんだろう?」と、ふと考え込んでしまったのでした。

初期(1930年代ぐらいまで)のミュージカル映画って、フレッド・アステアジンジャー・ロジャースの作品が登場するまでは、けっこうブロードウェイのバックステージものが多い。そして、そこに登場する女の子たちって、不道徳の匂いがプンプンするのね。自分がのし上がるためにはわりと簡単に体を売っちゃうし、衣装だってなかなか煽情的。そしてラインダンス。しかも公演は夜に行われるわけだから、当然夜のシーンが多い。そして稽古場は室内。ま、率直に言えば不健康。

で、アステア=ロジャース映画。この二人の映画にはキスシーンすらほとんどないのですが、アステアという人はジーン・ケリーの健全さとは対極にあるようなダンサーで、どんなに陽気な役をやろうが、そのダンスにはどこか退廃と憂愁、加えて夜の匂いが漂っている。いわばオトナの男の魅力。この2人の映画は10本中9本がRKOで製作され、MGMが真の意味でミュージカル映画の王国になるのはおそらくこの後です。

で、MGMのミュージカル映画がの多くが家族向けの作品になったのは、たぶんジュディ・ガーランドの登場が大きいんじゃないかと思うんですよね。ミッキー・ルーニー(こっそり言えばとても苦手なタイプ)とのコンビ、そして『オズの魔法使い』なんかで。でもね、それで失ったものも、大きいんじゃないかと思うんですよ。何でもそうですけど、すべてを健康的に白日の下に晒すと、不自然というかかえって不健全な感じがするんだよねー。

 つづく。