私は文学でも映画でも何でもそうですが、ストーリーへの興味というのは二の次で、その描き方にいちばん興味があります。映画だったら見せ方つまり映像。
てなわけで市川崑というのはとても好きな監督なのですが、それにしてもこの映画、すでに多くの方々に指摘されているように映像の素晴らしさはもちろんのこと、和田夏十の脚本がすごすぎた。「洗練」という言葉がぴったり。こんなの書けたら死んでもいいよなあ(脚本家じゃないけど)。
「誰にでも優しいってことは、誰にも優しくないってことなのよ」
うーん、名言。
テレビプロデューサーの風松吉(船越英二)とその妻、大勢の愛人たちの物語。に、サスペンス要素が入っています。まず、タイトルクレジットからしてオサレです。当時としてはかなり斬新だったと思う。だって今見てもいいんだもん。本妻は山本富士子、愛人のナンバーワン(=最古参)が岸惠子。その他岸田今日子、中村玉緒などが出ているんだから、まあ、面白くないわけがない。チョイ役で伊丹十三も出ていますが、いやになるくらい巧い。監督しか知らない方は、同じ市川崑の『細雪』などを見てほしいです。
船越英二が一世一代?の名演技。風さんっていう名前が、もうね……。見ているうちに、「私なら風さんの気持ちがわかる!」「私が風さんを守ってあげる!」という気持ちにさせられるのだから不思議。つまり、いつのまにか、観客が十一番目以降の女になっているのである。この映画がある限り、風さんの女は無限に増えていく仕組みになっている。
セリフがいろいろすごいのですが、文字では伝わらないのが残念。
山(良妻そのものの感じで)「まあまあ、風がいつもお世話になっておりまして」
宮(意を決して)「風さん、私の他にも女がいるんですよ」
山(まったく動ぜず)「ええ、存じております。私の存じ上げているだけで6人」
宮(キッとなって)「8人です」
山(あっけらかんと)「まあ、8人」
山「あなたも長年、第一号の妾としてねえ」
岸「その妾っていうのやめてくれる?」
純粋に、「楽しむ」映画。市川崑はそれがすごい。なんつーか、人生を考えさせるとかいうことに、この人はあんまり興味がないんだろうな。享楽的に映画を堪能できます。そして、『プーサン』なんかもそうですが、ピリッと諷刺がきいています。疲れているときは、こういう映画が一番。