映画がどうこうより、まぎれもない鏡花の世界があって、そっちに引きずられました。セリフとか。
淡島千景と山本富士子、若尾文子という大女優の競演だが、おケイちゃんこと淡島千景は、ハマリ役とは言えない。しかし、あとの二人が完全に位負けするほどの存在感はあった。それはもちろん、その人の持っているものなんだけど、一番はセリフ回しである。
おそらく、淡島千景は、私の知る限りでは、一番歯切れよく、美しい江戸言葉を話せる女優である。嫉妬してしまうほど美しい。早口で、キレが良い。
日本橋は、彼女の生家が営んでいた問屋があったところである。ある意味、なじみ深いところだ。これがもし、関西を舞台にした作品だったら、おそらく山本富士子が勝っていただろう。
それほど、セリフ、言葉というのは恐ろしい
淡島千景は、嫌な女、かわいい女、儚い女、強気な女、そして狂気を、わずかな表情の変化だけで演じ分けている。時として、わずかすぎて気づけないほどだ。この人の欠点は、おそらくこうした巧すぎるところにある、どんな役でも、それなりにやってしまうのだ。純粋な演劇畑の俳優のような臭さはないけれど、いかんせん巧すぎるのだ。
実際は、喜劇で、2.5枚目ぐらいのモダンな娘が一番合っていると思うんですけど、どうでしょうか。
柳永二郎の存在感がすごかった。鏡花の好きなグロテスクなものを、しっかり演じている。
映像は、やっぱり金田一ものを撮った市川崑なんだなあとひと目でわかるようになっている。これが初のカラー作品だったらしいが、なんか、光と影がもはやホラーの域に達しているようなカットもあった。
ちょっと気に入らなかったのは、私の好きな川口浩の扱い。まわりの子どもと年が違い過ぎるだろ、あれは。若尾文子をいじめる役どころだけど、設定に無理がある。
しかし、様式美というのはいいですね。比べてしまうと、現代のドラマなんて観るに堪えません。
俳優に、その伝統の重さを支えるだけの器量がないんだわ。何なのこの差は。教養?育ち?
役柄とは無関係に、山本富士子って性格がいいんだなあと思いました。ものすごく普通の人。それに比べて若尾文子は、悪の要素が強い
で、淡島千景は?となると、善でも悪でもない。正常でも異常でもない。しいていえば、自分に無頓着という感じ。いや、人生に対してもか。受け身?
山田五十鈴みたいに、芸に精進するというタイプでもないし、ものすごく不思議な女優さんだ。やる気がないわけでもなく、これが来た、はい、やりましょ、仕事ですから、みたいな、職人タイプ。
そしてやっぱり、脇ですね。でも、主を食うような脇でもない。
あら、映画の内容にほとんど触れてないよこれ。ごめんなさいね。