のちの東宝の『社長シリーズ』の原型となった作品。いちおう、喜劇ということにはなっているが、諷刺がきいていて、ただのドタバタ喜劇ではない。この頃の喜劇は丁寧に作ってあった。私は「社長シリーズ」も「駅前シリーズ」も嫌いではないけれど、あれは雑だよなあ、やっぱり、と思う。作り方まで高度経済成長期を反映して、映画が機械的に量産された時代。あ、日活映画も忘れちゃいけない。
三等重役という言葉は、上司がGHQのパージにあってしまい、その下の役員がニワカ社長になったことから来る、れっきとした史的事実に基づいているものであることを、この映画で初めて知りました。原作は源氏鶏太です。
まず、社員の大泉滉が怪演しています。インパクト強すぎ(この人を最初に観たのは、確か、成瀬己喜男の『めし』で、島崎雪子に言い寄る向かいの家のぶらぶらした男の役だったと思うが、あれも存在感があった)。そして、この人を皮切りに始まる結婚話がシュールすぎる。社長夫人(沢村貞子)が、着物を新調し、それを着たいがために仲人をやりたがる。こういうの、私大好きです。笑えませんが、昔あった、消火したくて放火しちゃった新米消防士の事件を思い出しました。
ちなみに、パージされて復活する日に脳溢血で倒れてしまう前社長の奈良さんは、『好人好日』で下宿屋の親父をやっていた小川虎之助(新国劇出身)。ライバルの藤山社長(進藤英太郎!!)の愛人おこま、どこかで見た顔だと思ったら、『家庭の事情』で山村聰を誘惑し、店を出す金をせびる飲み屋の女だった。そう、藤間紫であります。ちなみにこのおこまさん、最初出て来た時、「あ、おケイちゃん(淡島千景)に似てる!」と思った。しかしおケイちゃんより品がない(ごめんなさい)。藤間紫と久慈あさみが似ているとは昔から言われていて、その久慈あさみと淡島千景はどこか似ているのだから、結局藤間紫とおケイちゃんが似(以下略)。
さて、これ、実は、女が男を振り回している映画なのである。昭和27年の作品。占領は前年に終わっている。つまり戦後ならではの映画。夫は妻の尻に敷かれる。奥方たちは、社長夫人をたきつけて、ボーナスを社長から妻に直接渡すよう団結する。さっき書いた仲人の話もそうだし、結婚もとにかく、主導権を握っているのは女。
そんななか、昔気質の、男を立てる女として登場するのが、よりによって越路吹雪なのは、すごいセンスですよね。お好み焼き屋を経営していますが、恋仲である南海商事社員の男に、自分などはふさわしくない、となどと言う。これがなかなかよいんです。配役は本当に見事だと思います。宝塚の大スターであるコーちゃんに、一番古風な女を演じさせるのだから。身のこなしの美しさはさすが宝塚。そして、女っぽい。