高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

佐々木康『陽気な渡り鳥』(1952)

美空ひばり主演の映画なわけですが、こういう作品は、まずリアルタイムで観た人はひばりファンが8割以上だろうし、後年、DVDなんかで観た人もまずひばりファンがほとんどだろうし、あとはせいぜい、何らかの学術的研究に寄与するような方々がご覧になるぐらいだろう。

でも最近、こういう、大多数の、顔の見えない観客が大事なんだと思うようになってきた。文学で言えば、大量の、大衆文学の読者である。顔の見えない人たちの顔を少しでも見えるようにすることが、私の一つの仕事なのかもしれない、などと大それたことを思ったりもする。

ちなみに私はこの映画、淡島千景目当てで観たんですが、まあこういう人は上記よりもさらに少数でしょうね。脇役ですし。 この映画、ひそかに(でもないけど)カメラが厚田雄春だったりする。 もちろん、美空ひばりのための映画なんですが、その歌声と、演技力と、妙な成熟度に、少々ビビる。気持ちの悪ささえ覚える(褒めています)。

知人に、全盛期の松竹でアルバイトをしていたという方がいて、「ひばりちゃんは天才だった。アテレコでもミスをしたことがない。一発OK」という貴重な証言もいただいた。

そして、こういう存在は、宇多田ヒカルの登場まで、日本の音楽史というか芸能史にはなかったと思う。もっとも美空ひばりの方がずっと化け物だとは思うが。あ、ちなみに、私、美空ひばり好きです。尊敬の域です。

筋立ては、もう本当に清々しいまでの学芸会。善玉悪玉がはっきりしている。望月優子の継母なんかは、定型すぎて爆笑もんである。「彼女は継母の役を完璧に演じきったのであった」という感じである。そして絵に描いたようなハッピーエンド。父を求めて三千里である。

淡島千景が映画の世界に入ってまだ二年目のころの作品。旅芸人一座の女座長。しっかし、旅芸人って魅力あるよなー。何であんなに哀愁があるのか。私も一座に加えていただきたい。まあそれはそれとして、宝塚出身のおケイちゃんにしてみれば、やりやすい役だったんじゃなかろうか。手品師、水芸、女剣劇と、見せ所が満載。

そしてやはり松竹はいい。女優さんをほんとにきれいに映します。カメラの眼差しが丁寧。そして、徹底した娯楽を目指している映画なだけあって、普通ならいらないだろってところで、アップが入ります。何度も。ファンにはたまらんでしょうな。

まったく何も考えなくていい映画というのは、いい。娯楽はそういうもんだし、庶民はみんな大変なの。毎日精一杯生きてるの。だから、せめて、映画ぐらい、楽しく観たいのよ。文学だってね、ほんとはそうなんだよ。