すでに多くの批評が出ている有名な作品、今さら私が何を言っても、とは思うのですが、言わせてください、ただの感想。
これはかなり好きな映画。なぜなら、ひとえに、映画的な映画だから。そして、徹底して無機質だから。アメリカなのにアメリカとも思えない。殺風景と無機質さ。
エディーが「どこも同じだ!」というのがそれを象徴している。この映画、決定的に新しかったと思う。誰でも真似できそうで真似できない世界。凡人がやったら、わけのわからない、ただの陳腐なものになってしまうだろう。
黒のカットで場面を転換することは、今さら言うまでもない。エヴァとウィリー、恋愛感情が生まれるのかと思いきや(それはエディーも同じ)、ない。ただ、エヴァが去ったあと、さみしく思っていることはわかる。エヴァも、ウィリーにもらったドレスを、クリーヴランドに行く前にさっさと捨ててしまう素っ気なさ。それなのに、2人が1年後に会いに来てくれると喜ぶ(ただし手放しではない)。まったく、無機質。ボーイフレンドとの関係も同じ。
みな、孤立した断片なのだ。
そして、ハンガリーからの移民だという設定がまたよいのである。素朴さと貧しさ。3人はフロリダへ行くが、そこで金をすってしまう。エヴァはあやしげな取引の金を偶然得ることに。少しのお金を残して空港へ。男2人はあとを追う。ウィリーは一人、ブタペスト行きの飛行機に乗る。離陸。エディーは「なんてこった」と一人残される。ラストは、飛行機に乗らなかったエヴァがモーテルへ戻り、誰もいない部屋を見てため息をつくところで終わる。
どこへ行っても同じ、アメリカンドリームなどまるで否定。ハンガリーに戻ってしまうのがウィリーなのも皮肉。感じることを拒否させる、ドラマ性をここまで排されるとむしろ感動する。今の時代はさらによくない。無機質を表現することもできず、安っぽいメロドラマでしか表現できないような。設定も大半は似たり寄ったり。
ちょっとしか出てこないけど、ハンガリー人の、クリーヴランド在住のおばさんがよい。いかさま賭博の2人がトランプをやっても歯が立たない。かたくなに英語を話さない。
カメラも安っぽいし、でもそれもすべてOKの作品。明るくもなければ暗くもない。貧しくもなければ金持ちでもない。過去もなければ未来もない。ただ、今、この瞬間をなんとなく生きている若い3人がいるだけ。ニューヨーク、クリーヴランド、マイアミと、一種のロードムービーなのだが、名所もくそもない素っ気なさ。アメリカ人が作ったとは思えないような作品、つまり、ハリウッド的ではない。でもそれだけでもない。なんだろう。
エヴァがとっても魅力的。
ヌーヴェル・ヴァーグが古く滑稽に思えるほどの映画。あれはあれで、ドラマがあったから。