高山京子のブログ

高山京子(詩•日本近現代文学研究)のブログです。基本的には文学や映画のお話。詩作品はhttps://note.com/takayamakyoko/へ。Xは@takayamakyokoへ。

スティーブ・クローブス『恋のゆくえ ファビュラス・ベーカー・ボーイズ』(1989)

(邦題の「恋のゆくえ」が何ともウザいが)これまた大好きな映画。

やはりジャズはよい。よいのだから仕方がない。大人のほろ苦い映画。恋の映画というより、もっとシビアなショービジネスの世界の悲しさ、兄弟の対照性が面白かった。

ジェフ&ボーのブリッジス兄弟は、実の兄弟にしか出せないとしか言いようがない、息の合った演技。すばらしかった。性格も生き方も対照的な二人。堅実な兄と天才肌の弟。それが、スージーミシェル・ファイファー。吹き替え無しの歌のすばらしいこと)が入ってきたことで浮き彫りになっていく。スージーを雇うまでの場末でのオーディション、戦前のバックステージものを見ていたら、あまり今も変わらないんだなあと思う。そう、この映画、どこか昔の映画を彷彿とさせるのだ。

一番良かったのは、違う道を歩むことになった兄弟が即興で演奏するラスト。見事だった。これが「兄弟」、これぞ「兄弟」。このシーンを撮りたくて撮ったんじゃないかと思うぐらい。食うためのピアノなのか、自分の心を解放するためのピアノなのか。悲しいことに、兄には才が乏しい。それが、リゾートホテルで、急きょ、弟とスージーだけの演奏になったことから、いよいよはっきりとわかる(兄は子どもの事故のために帰宅というのが象徴的。芸術は本来、家庭とは相容れないものなのだ)。

今までのスージーとは違う選曲、歌い方。ピアノに寝そべって歌う姿、赤いドレスとも相俟ってゾクゾクするほど色っぽい。ここも、監督が撮りたかったシーンだろうなと思う。この後のホールでのラブシーンときたら、もう久しぶりのヒットでしたね。お決まりのラブシーンじゃない。この二人はお互いに惹かれあっているんだけど、手放しで恋愛するっていう年齢でもない。仕事仲間でもあるっていう、どこか乾いた感じがよかった。その微妙な距離感が、これぞ大人の映画って感じ。

なお、この出来事から、三人はぎくしゃくしはじめ、バラバラになるんですけどね。フランク(兄)の選曲を実行しなかったことが、後のカフェでのミーティングでわかる。二人とも口にはしないが、つまりフランクのやり方は古く、センスがないってことなんだよね。あーせつない。

ジャックの住むアパートがとてもすてきです。あまり母親の愛情を受けていない上の階の女の子がいりびたっていたり、犬を飼っていたりすることが、かえってその孤独感を際立たせている。舞台はシアトル。雨の多い土地だとか。行ってみたいもんだ。大人と思わせるのは抑えた演技のおかげです。ジャックを探して酒場に来たスージーが、ピアノの音色で彼とわかるところ。ピアノを楽しそうに弾く彼を見る目がとてもよかった。この後、どうなるのか、あいまいな感じのラストもすばらしい。

ああ、映画っていいなあ。